「住み家殺人事件」 松山巌著
みすす書房 ISBN4-622-07089-8 定価 2100円(税込み)
古今東西、老若男女、縦横無尽・・・・・
殺人事件とはいってもミステリーではないのであります。
現代社会に ま正面から取り組んだ建築論なのであります。
建築論、とくに最近の建築家の書く建築論がいかに「うさんくさい」かということ。
それは、物事を見つめる視線が、あきらかに現実を直視していないことから生じてしまっているのだと、この本を読んで気づかされるのであります。
理想を語るのは良いが、理想と現実のあいだにあるこの大きな裂け目を直視しないで、どうして人が住むという建築について語ることが出来ようか。
建築家の独善 井の中の蛙の建築家
そういう意味で、この本は、生活者の立場に立って、より良い住空間をつくってゆくためにはどうしたら良いのか、という大きな問い掛けを、わがままで天の邪鬼な人間への大きくて優しい包容力をもって語っているという、希有な本なのであります。
そのために、松山さんは「言葉」の壁をすごいパワーで突き破るのであります。
古今東西、老若男女、縦横無尽。
「言葉」というものが、ある囲い込みを前提として成立している(裏を返せばよそ者には通じない)のだとすれば、我々の生活はそうした囲い込みから「はみ出しっぱなし」なのであります。それこそが人間というものなのであります。
だから、本当に我々の生活について書こうとすれば、「言葉」の持っている囲われ者の世界、そしてその世界を囲う壁を突き破る強い視線、まなざしが必要になってくるはずです。
松山さんのこの本には、そうしたまなざしがアフレテイマス。
僕にとってこの本は、とても大切な本であります。
そして、村上春樹の「アフターダーク」とも並べておかれるべき本なのであります。
そんな建築の本がいままであったでしょうか。
多くの人に読んで欲しいと思います。
僕も、この本を何度も読み返すことになるでしょう。
「建築はほほえむ」という本と合わせて読むべき本ですね。