「変わる住宅建築と国産材流通」
著:赤堀楠雄 林業改良普及双書
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日本の住宅の多くは今でも木造です。昔から大工さんがつくってきました。大工さんは木材を仕入れ、目を光らせてそれを吟味して、一軒一軒の家に一本一本の材木を使ってきました。それは、木というものが生き物であり、決して均質な材質ではなく、一本一本個性的な材料だからです。一本一本の特徴を見極めて使わなくてはバランスのとれた長持ちする家は出来なかったからです。ですから、木を生かした家づくりの要は大工さんだったのです。
だったのです、と書いたのは、今では木材という材料を吟味できる大工さんが激減してしまったからです。
激減の背景には、家づくりを効率化してゆこうという社会の要請がありました。特に太平洋戦争のあと、戦災での住宅不足を解消するために効率的な家づくりが求められました。大工さんが目を光らせてしっかり作ってくれる方が良いに決まっているけれども、一戸でも多くの家を完成させるために、それまでの方法を変えてゆく必要があったのだと思います。
それから、日本の高度経済成長とともに労働力のホワイトカラー化がすすんだことが昔ながらの大工さんの激減をまねきました。技術の習得に何年もかかる大工という職業が時代遅れのものになっていったため、大工になろうという若者が激減してしまったのでした。
大工の文化が支えてきた木の家づくりですから、その大工がいなくなったらどうなるでしょう。大工が担っていた役割を近代的な技術で受け継いでゆくしかないと思います。しかし、戦後からしばらくは大工の文化は古くて捨ててしまってもいいものだと考えていた人が多かったのでした。それが最近になり、木の品質を問うことによって、木という生き物と真摯に向かい合った結果、大工が何百年も培ってきた木を使う文化の大切さが分かってきたのです。
住宅の生産を前近代に戻すことが1番なのかもしれませんが、そうした態度は住宅を必要としている人に対して、私たち住宅を作る側としては無責任だと思います。やはり、効率的に作れるほうがいろいろな意味でいい。では、木という生き物と付き合ってゆくにはどうしたらいいのか。そうした問の中で、私も含めて多くの人が木の家づくりに取り組んでいます。
前置きが長くなてしまいましたが、この本は木の家づくりが抱えている問題をバランスよく解説していると思います。木の家づくりに関わる人には必読の書ではないかと思うのでした。
真摯に問題と向き合う。そこからしか物事は始まらないのです。