「心を生みだす脳のシステム」
著:茂木健一郎 出版:NHKブックス
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「クオリア」の人、茂木健一郎の本を読んだ。
あまりにもたくさんの本がでているので、迷ってしまったが手ごろな価格で、それなりに詳しく書いてありそうなものということでこれを選んでみた。
「クオリア」というのは、数値化できない「質感」のこと。
認知心理学や科学の世界では、測定できないものは研究の対象とすることが難しい。しかし、我々が生きている世界で大切なものは、この「質感」というもの。そして、この「質感」を我々の脳がどのように認識するかということにむけてこの本は順序立てて進んでゆく。
結論としては「あとがき」を引用してみよう。
今、この本を書き終えて、心がいかにして脳から生まれるかという問題については、答えが出ていないということを深く感じることがいかに大切か、あらためて痛感している。
「あれ?」と言わないで欲しい。そこに至るまでのプロセスがとても面白い本だからだ。
僕は建築の設計という仕事をしている。同じ設計の仕事といっても機械の設計と建築の設計は大きく異なる。それは、機械の設計は、求められている機能をいかに合理的に解決できるかという命題に対して突き進んでゆくのに対して、建築の設計というものは「機能性」だけでも「合理性」だけでもないわけで、全く質の異なる基準(価値観)も大きく関係しているからだ。
それは、簡単に言ってしまえば、「きれいである」とか「なんだか気持ちがいいなあ」という、そういうことなんだけれども、茂木さんの「クオリア」という言葉を借りれば、それは「空間のクオリア」ということになると思う。
「空間のクオリア」という考えが思い浮かんだ時に、僕は一冊の本を思い出した。
「空間の詩学」著:ガストンバシュラール
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ずいぶん昔に読んだ本だが、今でもその断片ははっきり憶えている。
バシュラールは科学万能の考え方に大きく異議を唱えた哲学者。ちょっと神秘主義的な扱われ方をするけれども、この本を読めばそんなことはない。とても身近な例を挙げて「空間」と私たちの間で成立している「詩的」な事象について書かれた本だ。(また読み返してみようかな)
さて、僕ら設計者はこの「空間のクオリア」を探求しているといっても過言ではない。
それは、造形的な「クオリア」であったり、温度とか湿度、明るさといった環境的な「クオリア」であるのだけれども、求めるところは同じく「快適さ」である。
では、僕が設計する「空間のクオリア」とはどういうものだろう?
これはライフワークですね。そのためにも、茂木健一郎の本をもっと読んでみたいと思った。
ちなみに、この本は平易な言葉で書かれているが、その内容はちょっと難しい。我々が普段なにげなく意識しないでやっていることを微分的に分析しているので、それをちゃんと追いかけることは、やり慣れない作業(思考の)なのだからと思うが、読んで刺激になること間違いなしの本です。