【バケツリレー その4】 わらしべの里共同保育所 その1 顧客はどこにいる?
二年前に埼玉県の熊谷市で設計をさせていただいた「わらしべの里共同保育所」は埼玉県産材で作った木の保育園です。
完成した保育園を一番喜んでくれたのは子どもたちでした。遊びに行く度に、満面の笑顔で迎えてくれる子どもたちの姿を見ると木の保育園を作ってよかったなと思います。子どもたちは杉の床に頬ずりするくらいに近づいて木を身体中で感じてくれています。木の空間が子どもたちに必要だというのは園の皆さんの最初からの考えで、それは普段の保育の中で実体験として持っておられる手応えでした。
新園舎ができて子どもたちが変わったことはありますか?と職員の方に聞くと、子どもたちの重心が低くなったそうです。園内でかけっこして遊んでいてもきっかけを見つけてはすぐに転びたがるのだそうで、そのために子どもたちの腰の位置が低くなっているとのこと。また、子どもたちにどんな遊びをしようかとリクエストすると、床をごろごろする遊びをやりたいというそうです。子どもたちにとって木とはそれほどまでに必要なものなのだと改めて教えらました。
先日、木材関係者から地元の木材を使った小学校ができたから見てほしいと誘われて見学させていただきました。
その学校は鉄筋コンクリート造でした。聞けば地震や火災に強いのは鉄筋コンクリートだと学校関係者や担当した設計者、ゼネコンが強く考えていたため木造にすることができなかったとのこと。木造でも地震に強い設計はできますし木造で耐火建築とする技術は今ではたくさんあります。ご案内くださった関係者も木材の最新情報には詳しい方なのですが、それでも説得することができなかった。
そして、実現した学校の内装には、地元の杉は一部の壁仕上げに使われていただけでした。床は輸入のナラ材でウレタンコーティングが厚くされているものがコンクリートに直貼されていました。どうしてそうなったのか理由は単純で、傷がつきにくく管理が簡単だからです。
この床、子どもたちがゴロゴロと転がることはないでしょう。子どもたちが必要としているのは木とのふれあいです。それが大人の都合で奪われてしまったのです。
本当の顧客はどこにいるのか?本当の顧客を大切にしないで山の木が喜ばれることはないと思うのです。
木材の使いみちを開拓しなくてはと叫ばれています。木を必要としている顧客はどこにいるのか?喧々諤々議論が行われています。一方で、木の空間を必要としている子どもたちがいます。木の空間を必要としている子どもたちに木の空間を届けるのは大人の努めではないでしょうか。
初出「森林組合」No.577(2018年7月号)ホームページ掲載にあたり一部加筆修正した。