「ポートレイト・イン・ジャズ」
著:和田誠、村上春樹
ISBN:4-10-353407-9 出版:新潮社 定価:2500円(税抜き)
僕はジャズが好きだ。結構聴いている。
でも、まんべんなく聴いているわけではない。とても、かたよりがある。
この本には、26人のジャズミュージシャンが登場する。
知っている名前もあるし、相当に聴き込んだ人もいる。
一方、全然縁のなかった人の名前もいる。
なかでもビリー・ホリデイ。
僕はこれまでほとんど聴いていなかった。
どうして?
といわれても困ってしまうのだけれども
まあ、そういうこともある。
そして、僕がビリー・ホリデイを聴くきっかけとなったのが
この本なのだ。
僕は、村上春樹の文章を読んで心をつかまれたのだ。
「でもビリー・ホリデイがどれほど素晴らしい歌手かということをほんとうに知ったのは、もっと年をとってからだった。とすれば、年をかさねることにも、なにかしら素晴らしい側面はあるわけだ。」
僕も、年をとったのだ。
「ビリー・ホリデイの晩年の、ある意味では崩れた歌唱の中に、僕が聞き取ることが出来るようになったのはいったい何なのだろう?」(中略)
「ひょっとしてそれは「赦し」のようなものではあるまいか----」
と村上春樹は語りながら、それは「あまりにも深く個人的なこと」として話題から退ける。
でも、僕の心をつかんだのは、この「赦し」という言葉なのだ。
まだまだ、聴き始めたばかりだが
昔、聴いたはずの音が、まったくあたらしい音のように僕の前にあらわれることに
僕は驚きを隠せない。
ジャズの奥深さ、そしてジャズを生んだアメリカの歴史の重さ。
そうしたものが、ビリー・ホリデイの声のひとつひとつから響いてくるようだ。
音楽の奥深さがそこに具現化している、そんな出会いがビリー・ホリデイのレコードにはある。
そして、ここにもまた僕は「もうひとつのアメリカ」を聞くのだ。