【木材活用はバケツリレー その7】森林環境税あれこれ
2018年度の税制改革で森林環境税が創設されることとなり2024年度から住民税に年額1,000円が上乗せされることとなりました。現在個人で住民税を納めている約6,200万人のすべてが対象とされており、年間で約600億円の税収が想定されていています。
この税金はいったん国で集められて市区町村や県に配られます。その配布にはルールがあって、50%を私有の人工林面積、20%を林業従事者数、30%を人口、を基準として配布額が計算されます。
この税金は必要に迫られている国内の森林整備に使われるということが第一の目的なのですが、配分のルールを見ると森林が殆ど無い自治体にも配布されます。
森林のない自治体で森林整備とは不思議な感じがしますが、林業白書によれば「間伐や人材育成・担い手の確保」の他に「木材利用の促進や普及啓発等」も使用用途として掲げられていて、川上から川下につながるような木材活用促進にも使われる税金になっています。川上と川下をつなぐ税金でもあるんですね。
千葉県の林業家と一緒に地域の木材のことを多くの人に知ってもらおうとイベントに出ていたことがあります。その目玉は「丸太切りに挑戦」。間伐された小径木を手のこぎりで切る、ただそれだけの企画です。そんな企画に誰が参加するのかと疑問視もされましたが、やってみると大成功。この企画は人気企画となり数年連続で会場を賑わせたのです。特に子どもたち。彼らはのこぎりなんて持ったことがない。木なんて切ったことがない。一生懸命のこぎりを挽いて切り落とされたときの達成感はすごい。付添の大人たちも大感動です。切った輪切りの切り口を触ってみたりその香りを嗅いで「木っていい香りがするね」と笑う子どもたち。その時に考えました。まちなかの子どもたちは木に触れる機会(チャンス)を奪われているのだと。
木に触れなくてはその魅力は分からずじまいです。柔らかさとか硬さとか香りとか触った時の感じとか、そうした木とのふれあいの中に木の魅力はひそんでいます。
私が子供の頃はまちなかでカンナ掛けしている大工さんがいて、通りに面した材木屋さんもあって、街のなかに木の香がありました。住んでいる家も、無垢の木でつくることが普通で、小学校だって木造でした。日常空間に木がたくさんあったのです。それが、今の子供達の住む世界には木で仕上げた空間なんて見かけなくなってしまったのです。
木材活用を本気で考えるならば、次の世代を担う子どもたちと木のふれあいを作っていくべきです。一番は、子どもたちの過ごす空間を無垢の木で作ることです。次の世代の子どもたちが暮らす日常の空間にこそ無垢の木の空間が必要なのです。
森林環境税は、徴収に先行して19年度から年数百億円を地方譲与税として配られることになりました。もう来年です。このお金が何に使われるのかは各市町の行政にまかされています。木の空間を通して子どもたちが川上の森のことに思いを馳せることに、次の世代に木の魅力を伝えることに少しでも使われてほしいと思います。
初出「森林組合」No.560(2018年10月号)ホームページ掲載にあたり一部加筆修正した