「ジャズの前衛と黒人たち」
著:植草甚一 出版:昌文社 初版:1967年(現在絶版)
---ちなみに、僕の持ってるのは1974年の第19刷です。
この本を偶然に古本屋で見つけた大学生の頃、僕は植草甚一について、何も知りませんでした。
この本は「ジャズ」「前衛」「黒人」という言葉に魅かれて買った本です。
それを、引っ張り出してきて去年の暮から年を越して読み直してみました。
あたりまえなんだけれども、時間と空間を通り越して読み返すことの出来る「本」というのは、ほんとうに面白いですね。
この本を買った当時は「ひとの言ってることばかり紹介している本だ」なんて感想を持っただけでした。
あらためてこの本を読んで見て、1967年の空気が僕の廻りを(少しだけだったけれども)漂ったのです。「本」というのは、ほんとうに面白いものです。
植草甚一は早稲田大学に在籍していました。(おまけに建築学科)
今の僕の頭の中では「早稲田大学」→「今和次郎」→「考現学」とつながります。
そして、この本はジャズの考現学だな、1960年代のジャズというものを、リアルタイムで記録したものなんだな、と読み返した後に思ったのでした。
そう、ただ無心になって記録すること。
もちろん植草甚一の、はっきりとした視点で選ばれたものが記録されているのだけれども、集められたものを変な色眼鏡で見ていないことが本を読むとよく分かるのです。
変な色眼鏡で見ていないから、今読んでもとても面白いし参考になるのですね。
そこが「考現学」としてすぐれているところではないかと思います。
この本は1960年から1967年にかけて「スイングジャーナル」に連載していた膨大なエッセイの中から著者自らが選んだ40篇が著者の手で構成されて収録されています。単行本でのかたちでは現在は入手困難ですが、1976年から刊行された「植草甚一スクラップ・ブック--全40巻」が昨年から復刻され始めたので、その中から見つけることが出来るのではないでしょうか。
この本に収められているエッセイのタイトルを覚え書きしておきます。
1、黒人を排斥するアメリカのジャズ界
2、一九六二年一月のことだった
3、たまにはアンドレ・プレヴィンやデーヴ・ブルーベックも聴いてみよう
4、カナダのジャズ・ファンが面白い見かたをしている
5、チャーリー・パーカーと仲間たちの話をしよう
6、マイルス・デヴィスについてケネス・タイナンが論じた
7、ビル・エヴァンスとセシル・テイラーとの間にあるものを考えてみよう
8、ニューポートという煙草を買った日は、やっぱりジャズに縁があった
9、雨降りなので、家にいてフランスのジャズ雑誌を読もう
10、ヨーロッパで四人の黒人ミュージシャンが生きかたについて考えた
11、ある黒人学生がブルースにふれて自分の気持ちをさらけだした
12、ミンガスのファイヴ・スポット事件について
13、モンタレー・ジャズ祭でミンガスが真価を発揮した
14、ハーレムの暴動にふれながら最近の話題へ
15、黒いリアリズムとユーモアが映画やジャズにも入りこんできた
16、アート・ブレイキーの「ゴールデン・ボーイ」とサミー・デヴィスのこと
17、めくらのトランペット奏者を主人公にした「一滴の忍耐」というジャズ小説の話
18、ESPディスクからファッグスの「処女林」という変なものが発売された
19、レナード・フェザーがジャズ界にも「エスタブリッシュメント」があるというのだが
20、オーネット・コールマンのカムバックとジャズの「十月革命」をめぐって
21、五人の批評家が前衛ジャズについて話合った
22、オーネット・コールマンにたいする理解と誤解について
23、前衛ジャズにいい味方がついた
24、EPSディスクという前衛ジャズ専門のレコードが出はじめた
25、ESPディスクのアルバート・アイラーには興奮しちゃった
26、エリック・ドルフィの死と「ジャズの十月革命」
27、フランスでも前衛ジャズやアーチー・シェップが話題になりだした
28、「ジャズ・マガジン」の前衛ジャズ特集をめぐって
29、前衛ジャズを聴きに行ったフランスのファンの愉快な話
30、「ヴァラエティ」誌の前衛ジャズ事件をめぐって
31、ESPグループの内部の声を聴いてみよう
32、ニュー・ブラック・ミュージックとマルカムXの自伝をめぐって
33、「ダウン・ビート」増刊号と前衛ジャズの対談記事を研究してみよう
34、グリニッチ・ヴィレッジの新聞を拾い読みしたあとで
35、ブラック・ナショナリズムとジャズをめぐる討論が行われた
36、「響きと怒り」と「ニュー・レフト・レビュー」に出た前衛ジャズ論について
37、サン・ラの「太陽中心世界」とESPディスクの反響のありかた
38、前衛ジャズがフランス映画とスウェーデン映画に使ってあった
39、ロンドンにおける最近のオーネット・コールマンと再認識のされかた
40、コルトレーンの演奏をナマで聴いてみて
植草甚一が生きていたら、たぶんブログをやっているのではないでしょうか。
ブログって「今」をスクラップしておく「スクラップブック」として使うには大変便利なツールですから。
ということは「ブログ」と「考現学」のあまーい関係ということかな。
<蛇足>
この本の帯に書かれている
「ジャズの十月革命を微視的に追求する必読の好著」は良いとしても
「ジャズ・エリート必読!」というコピーはなんとかならなかったものでしょうかね。