【木材活用はバケツリレー その5】
わらしべの里共同保育所 その2 ネットワークでつくる
熊谷にある「わらしべの里共同保育所(以下、わらしべの里)」は構造材と床板の全てを製材品でつくり、そのうち84%は埼玉県産材です。
わらしべの里の理事長さんが、私の本「木の家に住みたくなったら(エクスナレッジ)」を読んでくださり、相談にこられました。その時に、私は保育園の設計経験のないことを正直に話しましたが、理事長さんは「保育園を設計してほしいのではなくて子どもたちの木の家を設計して欲しいのです」と言われたのを今でもよく覚えています。
わらしべの里の保育は子どもたちの個性を一番に考え、子どもたちを一元的に管理はしません。
子どもたちの個性の多様さを認めそれを活かしていこうということなのですが、木材の個性の多様さを活かして製材品で設計する事とそれは深く共鳴しました。中規模木造建築の場合、集成材金物工法が選択される事が多いと思いますが、わらしべの里には集成材は似合わない、個性ある無垢材でつくりましょうと保育園のみなさんと意見が一致しました。
できるだけ地元埼玉県産の木材で作りたいと考えたので、秩父の木の研究会の仲間である金子製材所さんに相談にのってもらいました。
子どもたちのための木の家を作るとはいっても、保育園は内装制限がかかり、木で包まれたような設計をすることが難しい。そこで、燃え代設計による準耐火構造として柱と梁を見せ内装制限の規制がかからないようにし、また、屋根の構造についてはJパネルと断熱材の組み合わせの準耐火構造で木を表したデザインとしました。
燃え代設計はJAS製材が必須になります。この計画を進めていた当時、埼玉県でJAS製材をしているのは素材調達でも相談に乗ってもらった金子製材所さんしかありませんでした。
素材調達と製材については金子製材所さんと相談しながら設計を進めていましたが、工事業者は入札で決めることになりますから、金子製材所さんに実際に木材の発注が出来るかどうかは未定のままプロジェクトはすすめられます。リスキーなプロジェクトにお付き合いいただいた金子さんには感謝しかありません。
入札の結果、木材については金子製材所さんにお願いすることが出来て良かったのですが、結果として思えば、これだけのJAS製材品をまとめられるのは金子製材所さんしかいなかったでしょう。
最終的には、金子製材さんのネットワークで、大径材は福島の協和木材さん、長尺材については静岡の柳川製材所さんの協力を得ています。それでも埼玉県産材率84%でこの建物は完成しています。
園舎が完成し、そこで走り回る子どもたちの姿を見、無垢の杉材に愛おしそうにてお触れ寝転がる子どもたちの姿を見るにつけ、子どもたちに森の豊かさを届けることが出来たと思います。
初出「森林組合」No.578(2018年8月号)ホームページ掲載にあたり一部加筆修正した。