「連戦連敗」
著:安藤忠雄 東京大学出版会
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ここで紹介する本は「クオリア」とかよく分からない本が多いので今回は建築家の書いた本。
ただ、茂木健一郎も読んでいたので気になったというのが正直なところ。
だいたい、日本人の建築家の書いた本で面白い本にめぐりあった事がない。これは、ちょっと不幸な事だと、自分でも思う。
しかし、この本は、面白かった。
昨年(2004年)の11月11日に目黒の雅叙園にて「美しい日本2004」というフォーラムが開かれ
その基調講演で安藤忠雄を聞いた。
○「美しい日本2004」のレポート
○安藤忠雄の基調講演のレポート
僕が学生時代には、安藤はすでに六甲の集合住宅の第一期とよばれている部分を完成させていた。沖縄でフェスティバルという商業施設も出来た。僕は建築雑誌でそれらを熱心に見ていた。嫌いではないけれども、それほど熱を入れて見ていたわけではない。
歳をかさねるごとに、建築デザインの新しい動向がそれほど気にならなくなってきていたから、最近の安藤忠雄についてはまったくの無知だった。だからこそ、安藤忠雄の生の声を聞いてみたいと思ったのだ。
その安藤忠雄の講演は面白かった。建築というものを実現するための熱き思いが安藤自身の口から語られていた。武蔵美に在学中の学園祭に安藤忠雄がシンポジュームで来た事があったが、その時の話はつまらなかった。それに比べたら雲泥の差だ。言葉に、血と肉が踊っている。なんだか、僕は安藤忠雄に感動して帰ってきた。
そんな記憶があるから茂木さんが読んでいるというこの本に反応してしまったのだろう。
この本の内容は、いかに安藤忠雄が国際コンペで敗れ続けているかという、正にタイトル通り。
東京大学の大学院生に向けた講義録をまとめたものでもある。
この本の中で、安藤はコンペを通して社会にコミットメントしてゆく意義を語る。その語り口が熱い。目黒で聞いた安藤の言葉がそのままここにはあった。
四つの講義としてまとめられた内容は
第1講--コンペとはなにか
第2講--昔からそこにあったものと新しいものとの関係
第3講--環境問題
第4講--自分の原点
およそ、そんなような主題ですすめられてゆく。
それにしても、本書にちりばめられた建築をめぐるさまざまな事。安藤忠雄がこれほどまでに博識だったとは。ただの喧嘩が強い建築家ではなかったのだ、というのは冗談だが、すべて独学である事を考えると、現在の学校教育とはいったい何なのかとも思えてくるし、そういう安藤が東大の教授をやっているというのも興味深い。
僕の場合は、圧倒的に個人住宅が多いので、個人住宅を通して社会にコミットメントする事はなかなか難しい。しかし、「設計をする」ということに対する基本姿勢は安藤忠雄から大いに学びたいと思った。
それは、設計者(あえて建築家という言葉を使いませんが)というのは、クライアントに対して、いかに与えられた条件の中で、どのくらい可能性をプレゼンテーション出来るかという事にかかっていると僕は思っているからで、安藤はそこのプロセスをなおざりにしない。できる限りのことをやる。そうした一つ一つの積み重ねが今の安藤忠雄をつくってきたのだと思うからだ。それは、この本の中の安藤の言葉が物語ってくれている。