年一回のアトリエフルカワ通信を今年もお送りできることを嬉しく思います。
「2020年はコロナ禍で明け暮れた一年でした。」と始まった昨年の通信でしたが、今年も落ち着くことなくコロナ禍は現在進行形です。 特にニュースで見る諸外国の様子は日本の状況と大きく異なっていて驚くばかり。世界の流通と生産の構造が根底から変わりそうです。
その一番の騒動は2021年の春先から騒がれた「ウッドショック」。みなさんもニュースでその言葉をお聞きになったと思います。 日本の木材自給率は去年は40%を越えたとは言え、ここ10年は20~30%で、国内で消費される木材のほとんどは外国のものと言う事実。 いわば、外国頼みの日本の木材界。そこでおこったコロナ禍。アメリカでは2021年末までの累計で80万人という方がお亡くなりになっていて、 そんな状況下では木を切る人も製材する人も運ぶ人もマンパワーが足りなくなり、アメリカ国内需要に答えるのが精一杯。 日本への輸出が今まで通りにできないのも当然。それが一気に来たのが「ウッドショック」です。
これはだから「コロナショック」と言っても良い。 その影響は木材を越えて電子部品にも及び、部品がなくて自動車や給湯器などの生産が出来ないという状況を生んでいます。
しかし、木材に関して言えば、国土面積の68%が森林である日本で「ウッドショック」って、やっぱりおかしい。自給率でも昭和35年では95%以上ありました。 では何故日本で「ウッドショック」が起こったのでしょう? 一言で言えば、輸入木材に頼り切っていたために日本の森林資源を利用する仕組みが弱体化してしまっていた、ということにつきます。
これを再構築するのはそんなに簡単な話ではない。でも、資源自体はあるわけですからあとは仕組みの再構築です。 2021年は、この再構築の問題をいろいろなところで議論してきました。
国産材を使う、そして地域の木を使う、そのためには強い協力関係が必要である。 森林側を「川上」、製材所が「川中」、そして利用する工務店や設計事務所が「川下」と呼んでいますが、 この「川上」「川中」「川下」の連携を再構築していく必要があるのです。
私が、この再構築の要と考えるものが三つあります。
一つはウッドステーションさんが展開されている大型パネル工法をもとに、開発者の塩地社長が提案している「仮想木材」という考え方がそれです。 木材の需要情報を整理して山側に着実に伝える。当たり前のことのようですが、日本でのほとんどの丸太の伐採は森林保全のための間伐であり、 木材の需要からの伐採ではないのです。ですから、丸太が欲しいと思っても思い通りに手に入らないということがあちこちで起こっています。 これを大型パネルというフォーマットで再構築していくこうという考えが「仮想木材」というのが古川の理解です。
二つ目は「森林パートナーズ」さんが取り組んでいる工務店が林業家から直接丸太を買う方式(森林再生システム)です。 こちらも需要情報による伐採を目指しています。安定した丸太の供給と、ちゃんと次の世代の森を育てるに十分な金額で丸太を買い取る仕組みを作り上げようとしています。 この仕組みが全国に広がっていくことを、私も応援していて「森林パートナーズ」さんの相談役として活動に参加させてもらっています。
そして、三つ目は「8畳グリッド」です。これは住宅評論家の南雄三さんが提唱している家づくりの仕組みで、研究会が一昨年から始まっており、 私もメンバーとしてこの仕組みをもとに地域の林業と一緒に作る家づくりが構築できるのではないかと考えています。 こうした考えが2022年にはもっと花開き、日本の木材活用がますます活発になると考えています。
というわけで、さて、2021年の話に戻りましょう。
2021年は今までとは違った仕事をいくつか手がけることになりました。
ひとつは、東京中央木材市場さんの移転に伴う「デザイン監修」と言う仕事です。
東京中央木材市場さんは日本全国の材木屋さんと付き合いのある卸問屋さんです。 移転に当たり、事務所棟と展示棟の二棟については中規模木造のモデル事例として作りたいという強いお考えがあったのですが、 設計施工でお願いしていたゼネコンさんにその思いがなかなか伝わらない。そこで、私の方にご相談をいただきました。 そのやりとりの中で、二棟の木造化について技術的、デザイン的なアドバイスをする役目を引き受けることになったのです。 この建物は2022年中に完成予定です。
そして、もう一つは福島県の西会津町のまちづくりの仕事です。 最初は、町民に愛されている木造の講堂がありその保存について相談を受けました。 その講堂は建築基準法制定以前の建物であるために法的には「既存不適格合法」という扱いになると言うことを調べたのですが、 それがきっかけで、まちづくりデザイン会議のメンターとして一年間関わることになったのです。 町民参加によるグループワークをかさね西会津町をよりよい町にしていく議論のアドバイザーをやらせていただきました。
2022年はこうした設計以外の仕事もどんどんやっていく予定です。
皆様方におかれましても2022年が良い年となることを願っております。
2021年のアトリエフルカワ
1月 福岡県うきは市の事業で「うきはTravelingBOX」開発に関わる
港区エコプラザで講演、東京中央木材市場さんから正式にデザイン監修の依頼を受ける
2月 ぎゃるり朔でスパイスカレーのレクチャー
南雄三さんのSDGs研究会に参加
家づくり学校「木から考える」講義
3月 altanativ forest 第三回 森林医学と森林セラピー開催
8畳グリッド研究会中間発表par サイプレススナダヤさんにてCLT工場見学と高知県のCLT建築視察
nozomi_House完成 飯能uc2 の林業家井上淳也さんの西川材利用
4月 滋賀県林業会館完成見学会に参加(設計者選定で審査員を務めました)
5月 Salon De ∫u Ken 第9回 いままでのふりかえり
altanativ forest 第四回 林業家からみたウッドショック
6月 渋谷イーストクリニック完成(内装設計)
神楽坂写真倶楽部グループ展参加(あゆみギャラリー)
エクスナレッジの取材で和歌山の山長さんへ
7月 y.y._House完成 (大型パネル工法)
西会津町まちづくりデザイン会議始まる
Salon De ∫u Ken 第11回「木の家に住もう。」を語ろう
8月 南会津の人たちと「ウッドショックカンファレンス(オンライン)」開催
岐阜県立森林文化アカデミーで講義
リフォームの寺子屋ビギナーズコース2021スタート
9月 木育デザイン虎の穴2021スタート
虎の穴デザイン会議スタート
ワクチン二回目接種(ファイザー製)
10月 滋賀県木造建築セミナー講師
イケダコーポレーション オンラインセミナー講師
JAS構uc2 造材利用拡大セミナー講師
伊那谷フォレストカレッジ講師
11月 upepo_House完成
altanativ forest 第六回 建築と林業
リフォームの寺子屋アドバンスコース2021スタート
アトリエフルカワ初のインターン生引き受け(高知林業大学)
新潟県地域材活用セミナー講師
カレー活動再開
12月 武蔵美 若杉先生のデザイン演習の講師 今期も努めます
東京理科大学社会人コース講師
「木の家に住みたくなったら」の改訂版である「木の家にすもう」が完成 発売は2021年6月
「建築技術」2022年1月号 ゲームチェンジ特集に寄稿
そのほか、日刊すまいWeb連載などがありました