【木材活用はバケツリレー その2】設計者と設計図 後編
図面に書かれるべき「木材のリアリティ」ってなんでしょうか?。設計者は森のめぐみのバケツリレーの中で設計図に何を書いたらいいのでしょうか?
建築の設計図を描くにあたり、まず使う素材についてのエビデンス、客観的な性能証明、つまり品質表示が重要なことは間違いありません。木材の品質表示は川上から川下につながる木材活用のテーマとしてとても大切なものです。その品質について他人任せにせずに設計図に書き込む事が大切です。
しかし、木材の世界で品質表示は遅れていると思います。「JAS規格」があるでしょう、という声が聞こえてきそうです。たしかに、木材で品質表示というとJAS規格です。しかし、そこには目視等級や機械等級などといろいろあり、一見しただけではわかりにくく、設計図への書き方が難しくて、ちょっと敷居が高い感じです。だから「JAS製材品」とその規格の内容を良く知らずに設計図に書くわけにはいかないと感じます。木材はその品質表示それさえ明快な答えは見つけにくいのです。これは木に関わる設計者としての私見です。
昔は大工さんが一手に木の品質の責任を背負っていました。仕入れてきた未乾燥の木材を自分で乾燥させて加工してお客様に提供する。木を購入する時に材の良し悪しを見定める目利きの力がなくては一人前の大工ではありませんでした。手元に数年寝かして木の癖を十分に読み込んでから使うのも大工の棟梁に求められる能力でした。あの棟梁が良いという材だったら間違いない。棟梁の個人名が物を言うブランドがあったのです。しかし、今は大工さん一人にその責任を求めるのは難しいでしょう。
しかし、これははっきりと言っておきたい。木材の品質について言えば、川上の方たちや川中の方たちの中に、より良い木材を提供しようと日々挑戦され実践されている方が少なからずおられるということです。そういう人たちが川上から川下につながっていくことによって木材の品質は川下にちゃんと届けられます。私は、設計者としての責任の取り方というのは、そういう人たちの活動を理解して仲間としてつながり、それを設計に取り入れていくことだと考えています。だからこそ、人と人が信頼関係でつながるバケツリレーが大切なのです。それは盲目的に信頼するのではなく、それぞれの立場の人がどういう価値観をもってどんな責任を背負うことを覚悟してやっているかをお互いに知ることによって生まれる信頼関係なのです。
そのつながっている感覚。それが木材という建築材料の大きな魅力なのです。
山林所有者が何代にもわたって育んできた森林資源を素材生産者がその価値を大切にして造材し、そして製材所さんに渡す。製材所さんも丸太の価値を高めようと工夫して製材する。それを大工さんや設計者が無駄なく大切に使う。それぞれの森への思いが木材を介して人と人を繋ぐ。そんな素敵な建築材料は他には無いのです。
木材という素材についての研究は日々深まっています。それにより、品質表示の方法がこれからもどんどん整理されてくると思います。バケツリレーの参加者の毎日が学びなのです。この学びは終わるところがないのです。
このバケツリレーの仲間になりませんか?この場を借りて多くの人に呼びかけていきたいと思っています。
木材について設計図に描く時に森の恵みに思いを馳せて描けるかどうかが設計者には求められているのです。
初出「森林組合」No.575(2018年5月号)ホームページ掲載にあたり一部加筆修正した。