「家族八景」
著:筒井康隆 新潮文庫
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昨年秋、NHKのドラマでやっていた「七瀬ふたたび」。
その昔、多岐川裕美が主演していたドラマもありました。
そういう懐かしさもあって、かかさず観ていたのですが、そうすると本でも読んでみたくなります。昔々、読んだことがあるような・・・ないような・・・あやふやな記憶で手にした「七瀬シリーズ」。
この「家族八景」は三部作の第一作目。想像以上に、俗っぽいところも目につきますが、家族の心の中のつぶやきの表現の巧みさに引き込まれてしまいました。
1970年から足掛け2年。『小説新潮』『別冊小説新潮』に掲載された8編の短篇。
住み込みのお手伝いさんなんて設定は死語でしょうけれども、主人公七瀬を「家族」に密接に存在させるにはその役回りが一番だったわけで、我々にとっては七瀬の目を通して家族の心のつぶやきを読み取るという立体的な空間構成が興味深い。そして、その立体的な空間に、8つの家族のそれぞれの姿が絶妙に描き出されているのは、その筒井康隆の筆のさえとともに、こうした小説空間の立体性によるところが大きいですね。
そういう技法論は、文庫版のあとがきで実は植草甚一が語ってくれているので、それを読むのもこの文庫の楽しみであります。
それはともかく、30年近く前の大衆小説に取り上げられた家族像に興味を持ってこの本を読んだというのが実のところなのですが、家族の崩壊という事象はこの時から既に始まっていることを再認識。
そうです。これは反ホームドラマなのです。
反ホームドラマから、エスパーの戦いの「七瀬ふたたび」(先日読了)、ミステリー仕立ての「エディプスの恋人」(読書中)と3作はつづきます。それぞれの小説は、まったく違う味わいを持っていますが、やはり、初作であるこの「家族八景」のインパクトが一番大きいと思います。今読んでも「反ホームドラマ」としての味わいはそこなわれていないのですね。