【木材活用はバケツリレー その1】設計者と設計図 前編
山にある豊かな森林資源、森のめぐみを、多くの方に届けたいという気持ちで私は建築の設計に関わっています。住宅を中心に建築の設計に関わるなかで、豊かな森のめぐみで作り上げた空間で過ごす人々の嬉しそうな笑顔をたくさんみてきました。
森のめぐみ(=価値)は、川上から川下にいたるまで多くの人の手で届けられます。その時に前の人が運んで来た価値を出来るだけこぼさないように受け取り次の人に渡すという一人一人の気持ちが大事です。この気持ちで川上から川下まで人と人が繋がり、森のめぐみ(=価値)は人々に届けられます。木材活用はバケツリレーなのです。そして、実はこのバケツリレー、川上から川下にとどまりません。林業は世代を超えた生業ですから、世代から世代への生業のリレーがあります。
木に関わることで時間と空間を超えて人と人がつながり、分かち合える喜びがある。そこから木材の価値は生まれるのだと思います。そして、その価値はプライスレスです。
というわけで、バケツリレー、まずは私の立場から、建築の設計者のことを書いてみたいと思います。
設計者の仕事の第一は設計図をまとめる事です。図面と仕様書で作られる設計図はとても大事で、ものづくりの要です。設計図はこれから作られる建物を客観的に示すものであり、設計図がなくては工事費の見積も現場作業や素材調達の計画もできません。
設計図には木材の寸法とその必要量、その品質が書かれます。わたしたち設計者は設計図を書くためにはそこで使われている材料についての知識がなくてはいけません。知識に裏付けられた設計図のリアリティが大事です。たとえば、もし、設計図が適当に描かれていてそこにリアリティがないとしたら、そんな図面は百害あって一利なしです。
ところが一方で、今の建築の設計では、大量生産のメーカーが用意したカタログに載っている商品の中から素材を選ぶ事が多くなっています。設計者は自分の設計した建物の素材に何か問題が起こればそれを提供しているメーカーの責任にすればいい。実に楽ちんです。それについてなんの疑問も持たない設計者もいます。責任の重圧から逃れたい!もちろん、その気持ちもわかりますが、逃げるばかりでは仕事の醍醐味も味わいも得ることができないのでは?と思います。設計の可能性さえ放棄していると感じます。
無垢材のフローリングについて同業の設計者から質問を受けたことがあります。どこのメーカーのものを選んだら良いのかと。私は、製材所や材木屋さんから良質の無垢材のフローリングはいくらでも手に入ると言ったのですが、質問者はメーカーのものでないと責任が取れないと言っていました。メーカー品を選ぶということは、その素材に対する知見が浅いことを露呈していることになるのじゃないかなあ、それでプロと言えるのかなあ、そんな風に感じます。
わからないから知る、わからないから踏み込んで素材の生産地まで足を運び自分の目で確かめる、それこそが楽しい設計者としてのあり方だと思うのです。そして、木こそ、人と人をつなげ、喜びを伝える素材なのです。こんなリアルな素材は他にはないと思いますよ。せっかく設計に関わっていてその喜びを放棄してしまっては、それはもったいないことだと思うのです。
初出「森林組合」No.574(2018年4月号)